スタートアップやグローバルの舞台で挑戦を続ける方々のリアルなキャリアストーリーを紹介する本シリーズ。
今回は、サッカーという原点からMBA留学、そしてグローバルスポーツビジネスの最前線へと歩みを進める堀口創平さんの挑戦に迫ります。
プロフィール
堀口 創平(ほりぐち そうへい)
慶応義塾大学卒業後、リンクアンドモチベーション、PwCアドバイザリーを経て、スペインのESADE Business SchoolでMBA取得中。在学中、ワールド・フットボール・サミット、北海道日本ハムファイターズを運営するファイターズスポーツ&エンターテインメント、IMGなど複数のスポーツ組織でインターンを経験。ヨーロッパMBAスポーツビジネスコミュニティを立ち上げ、代表として運営。
サッカーが教えてくれた「チームで一つの方向を向く」ことの価値
――まず、堀口さんのキャリアの原点となっているサッカーについて伺いたいと思います。いつ頃から始められたのでしょうか?
幼稚園からですね。3歳年上の兄もサッカーをやっていたので、一緒に遊び始めたのが最初のきっかけです。そこからずっと続けて、高校生までは、プロを目指し将来は海外のサッカークラブで活躍し、日の丸を背負いW杯でプレーしたいと思ってやっていました。ただ、高校3年生の大学受験のタイミングでプロを目指すのは諦め、大学はサークルでやるという形にシフトしました。
――長くサッカーを続けられている中で、特に印象的だった経験や、今でも糧になっている経験はありますか?
中学・高校までは割と高いレベルでプレイできていたので、一緒にプレイしていた選手が今、世界で活躍しているのが印象に残っています。
例えば、瀬古樹選手は中学時代のチームメイトでした。中学の時は特別目立っていたわけではありませんでしたが、そこから努力して明治大学でキャプテンをやり、横浜FCに入って中村俊輔選手がいる中でキャプテンを務めて、その後川崎フロンターレに移籍し、今はイギリス2部のストーク・シティFCでプレイしています。
あとは現在ブライトン・アンド・ホーヴ・アルビオンFCに所属する三笘薫選手とも中学の時に何回か試合をしたことがあります。そういう同い年ぐらいで一緒にサッカーをしていた選手たちが海外で活躍しているのを見ると、非常に刺激になりますね。

同級生の瀬古樹選手(左)と写真に納まる堀口さん(右)
――大学卒業後は人事コンサルの道を選ばれました。どういう背景があったのでしょうか?
サッカーをプレイし、いくつかチームのキャプテンも経験する中で、チームや組織で共通の目標に対して一つの方向を向くことの重要性を感じました。それはサッカーだけではなく、ビジネスにおいても同じではないかと思った時に、それと近しい仕事をしているのが人事や組織人事コンサルだと考え、中でもリンクアンドモチベーションという会社に惹かれて入社を決めました。
その後、転職したPwCアドバイザリーは、M&AのコンサルをするFASです。その中でも人事アドバイザリーチームという、M&Aのプロセスの中の人事を担当するチームに所属していました。人事のデューデリジェンスや、買収後の人事制度やカルチャーの統合などの案件に入ることが多かったです。
カタールW杯が人生を変えた――海外MBA進学とサッカービジネスへの転身
――人事コンサルをされた後に、MBA留学、そしてサッカービジネスへとシフトチェンジされました。そのきっかけは何だったのでしょうか?
きっかけは2つあります。
1つ目は2022年のカタールワールドカップです。同い年の三笘薫選手や、チームの先輩であった相馬勇紀選手といった、一緒にプレイしていた選手たちがドイツやスペインに勝つなど大活躍して、すごく感動して嬉しかった反面、ちょっと悔しさもあったんです。
その時、自分は何も成せていなかったので、自分も将来ワールドカップ優勝に貢献したいと思いました。サッカー選手としては無理でしたが、ビジネス面からアプローチできないかと考えたのが大きなきっかけです。
もう1つは、PIVOTというYouTubeチャンネルで岡部恭英さんという方を知ったことです。彼はUEFAチャンピオンズリーグで働かれていた方で、慶應大のソッカー部を出て英国ケンブリッジ大でMBAを取得し、エバートンでインターンをして、チャンピオンズリーグの代理店であるTEAMマーケティングに入られたという経歴の持ち主でした。
僕も彼と同じようなキャリアを辿れば海外サッカー業界に入れるのではないかと思い、海外MBAという道を選びました。
――実際にESADEでMBA留学をされてみて、いかがですか?
結論から言うと、行って非常に良かったです。理由は3つあります。
1つ目は、現地のサッカー文化に触れられたことです。バルセロナはサッカーが非常に根付いている地域で、去年はラ・リーガで久々に優勝したり、エル・クラシコとレアル・マドリードとの試合があったりしました。そういう時の街の熱狂は半端ではなく、日本では絶対に味わえない経験でした。自分はこういう人々の感情を熱狂させるような業界にいたいと強く思えました。
2つ目は、サッカー業界に入り込むきっかけになったことです。MBAのアルムナイネットワークや、ヨーロッパで行われるサッカービジネスのイベントに参加することで、徐々にこの業界に入っていける機会を得られました。
3つ目は、多様性を実感できたことです。今いる180人のクラスメイトは、約45カ国以上の国籍から成っています。もちろん、それぞれの人々で性格は異なりますが、傾向として、ラテンアメリカの人たちは優しくてその場のプレゼン力が強い、ドイツ人やアメリカ人はしっかりしている、インド人はすごく話すといった具合に、いろんな国の人々の特質を知れたのは非常に良かったです。

世界各国のクラスメイトと過ごすMBAライフ
――ESADEでのMBA留学を決めたのは、どのような理由からでしょうか。
理由は大きく2つあります。1つはサッカーに関わることを大前提として、スペイン語を学びたかったことです。スペインだけでなく、アルゼンチンなどラテンアメリカのサッカー強豪国とコミュニケーションを取るために、スペイン語は重要だと思いました。将来、FIFAで働くことを目標にしているため、その際に必須となる第三言語としても、スペイン語を学びたいと思いました。
もう1つは、ESADEのアルムナイにサッカー業界で活躍している方が多かったことです。マンチェスター・シティのCEOやチェルシーのチーフ・レベニュー・オフィサーなど、ESADEのアルムナイ出身の方が多いんです。
さらに、FCバルセロナのスタジアム、カンプ・ノウから歩いて15〜20分のところに学校があるので、バルサで働いているアルムナイも多く、サッカー業界とのつながりが強いと感じました。
実践を通じて学ぶ マドリード、シンガポール、日本を駆け巡るインターン生活
――学業以外でも幅広くスポーツビジネスに関わる活動をされていると伺いました。
はい。MBAのプログラムは去年9月から来年3月までの18ヶ月で、最初の1年間は毎週学校に通う忙しい時期でしたが、6月以降はインターンシップ期間として非常にフレキシブルになります。
まず、ワールド・フットボール・サミットという、世界中でサッカービジネスカンファレンスを主催している企業でインターンをしました。9月の香港でのイベントへ向けたアジアのセールスとマーケティングを担当し、最初はリモートで、6月から8月は本社のあるマドリードに引っ越してオフィスに通いました。
9月は日本に戻って、北海道日本ハムファイターズを運営するファイターズスポーツ&エンターテインメントで1ヶ月、経営企画のインターンをしました。バルセロナMBAの先輩で、エスコンフィールドの建設に携わった方とのご縁がきっかけで実現したインターンです。高校のサッカー部と慶應大学の先輩、さらにサッカー好きという数多くの共通点もあって、繋がりが生まれました。
10月から12月は、シンガポールに来て、IMGという世界的なスポーツマーケティング会社のフットボール部門で働き、欧州フットボールクラブやリーグのスポンサーシップセールスをエージェンシーという立場から行っています。
――インターン以外の活動についても教えてください。
ヨーロッパMBAスポーツビジネスコミュニティという団体を立ち上げて、代表として運営しています。
これは、MBAの学生とスポーツ業界の距離を近づけたいと思って作ったコミュニティです。元々、ESADEに入ればアルムナイと繋がれてスポーツ業界に入れると思っていたのですが、実際には180人の学生の中でスポーツ業界に行く人は1〜2人程度で、思ったほど簡単な道ではなかったんです。
スポーツ業界に入るにはネットワークが非常に重要だと感じたので、ESADEだけでなく他のヨーロッパのMBAの学校を巻き込んで、いろんな学校のアルムナイにアクセスできるコミュニティを作り、スポーツビジネスを学ぶ場にしたいと思い、4月から立ち上げました。

キャリアの可能性を広げるため様々な活動に参加
日本と海外のサッカービジネスに、30年で20倍の差がついた理由
――日本と海外でのスポーツビジネスの違いについて、どう感じられていますか?
まだまだ、私も駆け出しで、日本・海外のスポーツ業界ともに、経験が豊富ではない前提がありますが、海外の方が商業化が進んでいる印象です。例えば、イギリスのプレミアリーグのクラブでは、約85%のクラブに外資が参入しています。アメリカのPEファンドや中東の富豪や国営のファンドなどがお金を入れていて、資金面でも人材面でも、優秀な人を取り込むのが進んでいます。
一方で日本は、マンチェスター・シティが横浜F・マリノスの株を20%ほど持っていたり、レッドブルが大宮アルディージャを100%買収したりといった動きはありますが、まだそこまで外資の参入が進んでいません。
――具体的な数字で見ると、どのような差があるのでしょうか?
ヨーロッパのプレミアリーグが始まったのが1992年、日本のJリーグが1993年です。当時は、Jリーグのクラブもプレミアリーグのクラブも、売上規模は同程度でした。
ところが今、日本で一番収益を上げているクラブは浦和レッズで年間約100億円の一方、レアル・マドリードは年間約2000億円弱(€1,045.5M)を売り上げています。この30年間で、20倍もの差ができてしまっています。
これは、サッカーのレベルの違いも大きく影響しています。レベルが違うと、グローバルオーディエンスの数も全く違います。日本人はJリーグを見ますが、ヨーロッパの人はJリーグをほぼ見ません。一方、海外のトップリーグはレベルが圧倒的に高いので、ヨーロッパだけでなく日本、インド、アメリカ、香港、シンガポールなど、世界中の人が見るので、規模も違います。
「気合いと思いがあれば、道は開ける」 サッカービジネスへの挑戦
――選手、観客、そしてビジネスという立場からサッカーと関わられてきた中で、サッカーへの見方は変わりましたか?
本当に大きく変わりましたね。大学の時は視野が狭く、サッカーの仕事は選手かコーチか監督ぐらいしかないと思っていて、サッカー業界に入るなんて1ミリも考えていませんでした。
ただ、社会人になって色々と情報が得られるようになり、「サッカービジネス」というものがあると知って、去年のMBA留学から本格的に目指し始めました。
最初は、海外のサッカークラブで働くなんて、ものすごく優秀な人でないと無理だと思っていましたが、蓋を開けてみるとそうでもないと感じています。
自分はまだ道半ばのインターンシップという立場ですが、ワールド・フットボール・サミット、ファイターズ、IMGと経験を積み、海外サッカー業界でフルタイムで働くことが「夢」だったところから、実現可能な「目標」に変わっている感覚があります。自分は優秀ではなく、どちらかというと気合いで進むタイプですが、ちゃんと気合いがあって思いがあって、行動力があれば、この業界に入っていけると実感しています。
まずは、自分自身が業界にしっかり入り込み、自分の背中を、同じ年代や年下でサッカー業界に入りたいと思っている人に見せて、業界に入ってきてくれたら、日本のサッカーのビジネスレベルも上がっていくと思っています。そういう世界を作っていきたいですね。
2046年、日本でのW杯優勝を目指して
――堀口さんの今後のキャリアビジョンを教えてください。
幼少期から抱いていた「日本のワールドカップ優勝」という夢に、ビジネスの面から貢献することが最終目標です。
具体的には、今年7月に日本サッカー協会の会長である宮本さんが、「2046年に日本でワールドカップを招致して優勝する」と宣言されているので、そこにコミットしたいと考えています。
ワールドカップの開催は大体、開催の10年前に決まります。2046年なら2036年ごろですね。その2036年には、ワールドカップの招致にインパクトを与えられる立場にいたいと思っています。
そのために最も重要なのが、日本人がFIFAで働いているかどうかです。今、FIFAで働いている日本人はほぼいません。だから自分がそこに入り込んで、日本に有利なように組織内で動いたり、内部で議論されている内容を日本に伝えたりしたい。これを2030年から2036年ぐらいまでの5〜6年間でやりたいというのが、ミッドタームゴールです。
――そのためのステップはどのようなものでしょうか?
FIFAに入るためには、海外のサッカー業界でしっかりと経験を積む必要があります。
まずはクラブチームでしっかりと現場感を理解し、その後にラ・リーガやプレミアリーグといった海外のリーグに入って、よりマクロな視点で制度を作る仕事をする。その次にFIFAに行く、というのが今描いているマイルストーンです。
そしてその後は、日本に戻って日本サッカー協会に入り、会長を目指していきたいと思っています。
能動的なキャリア選択を 人生の可能性を広げた、海外での挑戦
――Linkard Careerとの関わりを通じて、得られるものを教えてください。
Linkard Careerでは、スタートアップやグローバルの舞台で活躍する方々と出会える交流会を定期的に開催されており、同じ志を持つ仲間と刺激し合えることが大きな魅力です。多様なバックグラウンドをもつ参加者との対話は、新しい視点やキャリアの可能性を広げるきっかけにもなっています。
また、Linkard Careerに在籍するキャリアアドバイザーは、海外での実務経験やグローバルキャリアに精通した方が多く、海外挑戦に伴う不安や悩みに対して、実体験に基づく具体的なアドバイスをいただける点も心強い特徴です。キャリアの選択肢を広げたい方にとって、安心して相談できる場となっています。

交流会の様子 ― 和やかな雰囲気の中で、新たなつながりと刺激を得られる場。
――最後に、グローバルな舞台での活躍を目指す人に向けてメッセージをお願いします。
一度、海外のMBA留学や海外で働くという経験は、人生にとって大きな価値があると強く感じています。
僕自身、MBA前は海外留学の経験はあまり多くなく、短期で1ヶ月アメリカやイギリスに行ったことはありましたが、長期は初めてでした。
ですが今回、MBAで長期滞在して、様々な価値観の人と出会うことや、実際に海外で仕事をすることで、働き方の違いを実感できました。もちろん英語力など、難しいと思うことはあります。ただ一方で、日本人としてしっかりと真面目に仕事を進めていれば、異なる環境でも価値が出せると気づいたことが、大きな自信になりました。
海外に出るというのは、ちょっと勇気がいることかもしれません。ですが一回出てみて頑張って挑戦してみたら、自信もつきますし、自分の人生の可能性も広がると思います。
ぜひ、飛び込んでいってほしいと思います。

